宮内悠介著『エクソダス症候群』2019年12月27日 23:24

15年 8月29日読了。
 面白かった。カバー袖に「舞台は火星開拓地、テーマは精神医療史」とある。舞台設定が少し面白く、化石燃料のない火星では、移動手段として馬が多用されている。その他、開拓時代で物資が不足していて皆貧しく技術も素朴である。ブレードランナー+西部劇みたいな感じ。主人公の精神科医が勤める病院はカバラの「生命の樹」を模した配置で建てられていたりして、呪術的な雰囲気もある。登場人物では、悪役のチャーリーという老人が、『羊たちの沈黙』のレクター教授を思わせて魅力的である。
 は精神病院の現状とチャーリーの陰謀、それらと並行して主人公が忘れていた自身の出自が明らかに成る過程が描かれる。主人公が幻聴に導かれて自分の生まれた場所へと辿り着く場面などなかなかスリリングである。
 主題的には、精神疾患が「脳の社会への不適応」であるならば「社会の方を治療すべき場合もある」という見解など興味深いが、更に根源的に「狂気とは何か」逆に言えば「正気とは何か」についても語られて良かったのではないか。あるいは狂気は単純に否定すべき物かについて。それに関連して狂気の持つ神秘性がもっと強調されても面白かったように思う。オカルトに成るぎりぎり手前くらいの所に行っても。

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