ジョー・ウォルトン著『図書室の魔法』上下2019年11月11日 21:21

15年 5月22日読了。
 ストーリー性は低く、断片的エピソードの積み重ねなのだが、散漫な印象に成らないのは、主人公の魅力と「日記」という形式の故か。しかし、じっくり描けばかなり面白く成りそうな母親の描写が僅かしかないのも日記という形式故である。
 思春期の少女でありながらSFを中心とした読書に没入する主人公は変わり者と思われているが、読者から見れば十分以上に共感できるだろうし、SFファンであれば身につまされるかも知れない。
 解説にある次の指摘は重要である。「つまり、モリの母は魔女などではなく、フェアリーも魔法も(もしかすると双子の妹であるモルさえも)存在せず、ただ、自分を虐待する母の元から逃げ出した少女が、現実と折り合いをつけていくために、実際に起こった出来事の上に空想の産物を書き加えていたという可能性だ」。これについて、作品中では仄めかす程度にしか示唆されていないが、エンターテインメントだからと遠慮するとも思われないので、作者自身余り意識していないのかも知れない。だが、このような多重性、決定不可能性は小説をより豊かにする。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://castela.asablo.jp/blog/2019/11/11/9175677/tb