吉田知子著『満州は知らない』2019年09月12日 23:34

14年11月27日読了。
 三編収録。表題作では、理想的とは言えないが大きな問題もない平凡な家庭の主婦が主人公。彼女は五歳の時に満州から血縁ではないらしい女に連れられて引き上げてきて、両親の顔も覚えていない。今はまずまず幸せと言っても良い家庭を築きながら、明確に成らない自分の出自が気掛かりで独自に調べ始める。ところが調べれば調べるほど自分が何者か判らなくなり、彼女の自己同一性は揺らぎ始める。調べるほどに苦しく成るのに、出自を確定しなければ現在の自分も肯定できないという強迫観念に捕われていくのである。
 収録された三編とも引揚者や中国残留孤児を扱っていて、国籍と自己同一性の問題を主題にしている。『お供え』に収録された作品のような幻想性はないが、不条理感はたっぷりある。

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