ホセ・ドソノ著『境界なき土地』2019年07月06日 23:17

14年 7月27日読了。
衰退が激しくやがて消えていく事が予感される南米の田舎の村の、ひときわ寂れた売春酒場を中心にした物語。幸せそうな人が一人も出て来ない。対立軸は沢山ある、というか、主要な登場人物の殆ど全員が相互に対立的関係にあるが、殆ど何も解決されないまま小説は終わる。主人公のオカマの踊り子マヌエラに代表されるように、登場人物は皆自己同一性が混乱していて、自己イメージが揺れ動いている。それはまるで、何かに直面するのを避けるために自分を誤魔化し続けているかのようだ。マヌエラの娘の「終りゆくものはいつも平和」「恐ろしいのは希望」という言葉が奇妙なリアリティを持つ。性的道徳的な異常者の視点から描かれた世界を訳者は「グロテスクリアリズム」などと呼んでいる。しかし、六十年代の南米では確かにそれは奇怪で醜悪だったのかも知れないが、現代の都市住民から見るとさして異常とも思われない。それを開放と見るか頽廃と考えるか。もう「健全とは何か」が良く判らないしな。

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